オンデザインの暮らし

オンデザインの日々や、暮らしの中での発見 を紹介しています

接ぎ木としての建築 [廃校コンバージョン]

オンデザインの一色ヒロタカです。
最近のオンデザインでは、
住宅だけでなく、民間や公共の施設、まちづくりなど、
様々な規模や性格の異なるプロジェクトが日々動いています。
私は、多くの参加者が一つのプロジェクトでチームを組むような案件に関わることが多く、
その中の一つをご紹介します。


これは宮城県石巻市雄勝町三陸の海に面した小さな浜のプロジェクトです。
この地域に残る築90年の廃校になった雄勝スレート葺きの木造小学校を、
新たな学びの場へと更新していくものです。


全国や世界の子どもたちに、
この地域で培われてきた自然豊かな里山や、漁師や農家から生活文化や知恵を「学び」「体験」する。
このような活動の拠点とし、子ども達の育成と地域のコミュニティの再生を試みる場の実践です。



木造の校舎は、3.11の地震や裏山の土砂災害により、すで半壊状態となっており、
とてもそのまま使える状態ではありませんでした。
そこから様々な人たちの手によって土砂や瓦礫は撤去された空間は、
半壊という状態ではあるものの、
周辺の自然環境や風景が校舎の中へ飛び込んでくるような、魅力的な状態でもありました。


また丁寧に90年という歳月の中で培われてきた校舎を観察していくと、
歴史を刻んだ校舎の構造体や、小学校として機能していた様々な校舎のパーツは、
半壊とはいえ非常に力強く、魅力的なものでした。


この魅力的な校舎だけでなく、自然豊かな敷地全体をひとつの環境としてとらえ、
90年の間培ってきた今の状態に、
植物の「接ぎ木」のように新たなものを「あえて足す」ことを手がかりとして、
子ども達の学びの環境づくりを実践しています。



↑半壊によって半外部となった空間に、最小限の構造補強や内部空間を加えます。


接ぎ木は、台木といわれる既存の樹木に、
今必要とされる新たな役割を持った穂木を接ぎ足すことです。
小学校として校舎や敷地が培ってきたものへ、
この先必要とされる子どもたちの学びの場としての機能を、
最小限かつ丁寧に接ぎ木していくのです。


↑既存の校舎の必要な部分へ、部屋としての壁を足していきます。



↑既存構造体を活かし、最小限の構造補強を行います。



↑「古い」残すものと、「新しい」足したものが共存していきます。


「徹底的に残し、そこにあえて足す」。
この敷地に根をおろす校舎や自然環境、そして地域を、
接ぎ木のように「あえて足す = 建築する」という行為により、
ひとつの環境として繋ぎとめていきます。


実はこの接ぎ木という手法が、
できるだけ多くの参加者(子ども達、デザイナーやボランティア、地域住民)のアイデアや思いを受け止め、
接ぎ木のようにすでに根付いているものを活かし、そこへ新たな価値として接いでいくのです。


既にあったものを復元しようとすると答えは一つですが、
接ぎ木のように「あえて足す」という仕組みでは、参加者の数だけその答えが存在します。
「つくる仕組み」として、多様な参加者のアイデアや痕跡を、この環境へ接ぎ木として定着させることは、
集合知として、参加者全員の価値観を受け止めるプラットフォームとなるのではと思っています。


今では接ぎ木の種類も多様となり、私たちの建築家としての接ぎ木だけでなく、
  様々なデザイナーやチームによる接ぎ木、
  ボランティアの手によって造られたものによる接ぎ木、
  周辺地域からやってくる子ども達による接ぎ木、
  個性豊かな大工さんや職人、現場監督による接ぎ木、
  地域の人の手による恊働による接ぎ木etc…
このような多種多様な接ぎ木が校舎や敷地に施されているのです。


↑ボランティアの手で、校舎の裏のランドスケープをつくっています。



↑校舎の前には、パーマカルチャーデザイナーによる、
 ビオトープと水田がつくられました。



昔、小学校を卒業した地域の方々から、ボランティアとして参加した方々、
そしてこれから参加する未来の子ども達も含め、
新たな学び場の整備は、手を休めることなく日々更新されていきます。
このひらかれたプラットフォームが、
敷地を育て、校舎を育て、地域を育て、そして人を育てる、
このプロジェクトで継続されていく価値として、
様々な人の手によってこの場所が育っていくことに期待しています。


校舎の工事は間もなく完了しますが、
子どもの学び場づくりは、決して終わる事なく未来へと続いていきます。


一色ヒロタカ